【試し読み】桜町商店街青年部ただいま恋愛中! 14: Every cloud has a silver lining

桜町商店街青年部ただいま恋愛中! 14: Every cloud has a silver lining

桜町商店街シリーズ

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 高橋の食事が終わった後、店舗の片付けと清掃を行う。閉店は二十二時だが、閉店処理を終えると二十三時近くになる。
「松名瀬さん、ご飯は?」
「まあ、適当に済ませたよ」
 夜の営業が始まる前に、多少、食べておく。大抵、これで夕食は終わりだ。仕事が終わった後、少々の晩酌をすることはあるが、この時間からはさすがにガッツリ食事をするというのは珍しい。
「…………なんか、今日は疲れてたみたいだな」
 松名瀬は店舗から続く自宅部分へと高橋を誘いながら言う。
「まあねぇ、四月の公務員なんか、馬車馬みたいに働かされますよ。新人を連れてあちこち回ったり、新しい上司に一から説明したり、本当に大変すぎて……」
「上司が代わって、新人が来たんじゃ、そりゃあ大変だな」
「その上、防災公園課に同僚を一人取られたんだよ。だから、元々の観光課メンバーは、俺一人って訳で、もーてんやわんやよ!!」
 元々、観光課はそれほど人材が豊富な訳ではない。
 観光課の課長、係長、そして高橋と、同僚という少数精鋭部隊だったが――、課長と同僚が配置換え、代わりに新人が来たというのだから、高橋がパニックに陥っているのも無理はない。
「……なんか、凄いね……」
「でしょ? もー、新しい課長と新人を一緒に配置するってバカなの、人事課は!?」
「ご愁傷様……少し飲む?」
「松名瀬さんは?」
「高橋さんが飲むなら、ちょっとつまみも作ってくる」
「じゃ、飲む」
「やったあ!」
 飛び上がる勢いで喜んでいる高橋を見て、松名瀬は少し心配になる。
「……食事、足りない感じだった?」
「えっ? そうじゃないけど、つまみは別腹」
「太るよ?」
「えっ? でも、この後少し……『運動』しない?」
 意味ありげなまなざしを向けられて、松名瀬は「まあ、そういうことにしておくよ」と言いながら、自宅のキッチンへ向かう。
 冷蔵庫を開けて食材を確認する。丁度、早めに使った方がいい豚こまがあった。
 雑然とした冷蔵庫。店で使っている冷蔵庫とはかなり違う。店の整然さは自宅までは及ばない。
「豚こまなら……」
 と思いを馳せ「高橋さん、何飲む? ビールと日本酒と、ウイスキーあるけど」と高橋に問う。
「じゃあハイボールがいい」
「オッケー」
 さっぱりしたハイボールなら、多少油っぽくても良いだろう。
 日本酒と言われたら、「豚こま肉のネギ塩炒め」か「豚こま肉のポン酢和え」だったし。
 ビールなら「豚キムチ」か「豚こまのカリカリ唐揚げ」。
 ハイボールなので、今回は「豚こま肉のガリマヨ炒め」だ。
 高橋の言っていた『運動』の部分だけは多少気になったが、今更、ニンニクの匂いを気にするような仲でもないだろう。
 豚こま肉を適当なサイズに切って、片栗粉をまぶす。ごま油とサラダ油を熱したフライパンにひいて、豚こま肉を投入してカリカリに焼きつつ、隣でニンニクのみじん切りを炒めて、いったん火を止めてから、マヨネーズとポン酢、少々の砂糖を合わせた調味液で和えるだけだ。手軽だが、さっぱりしたハイボールにはよく合う。
「あ~、ニンニク、良い香り。ハイボールとニンニクって合うよねぇ」
 などと言いつつ、高橋は勝手知ったる様子で、ハイボールを二つ作っている。
「ほい、できあがり。片付けはあとにしよう。じゃ、少し飲みますか」
 居間へ戻って、二人でつまみを突きながらハイボールを飲む。
「あー……、凄い美味しい。この為に、生きてる感じがする……」
 大げさに感動する高橋に苦笑しながら「そう言ってもらえると、作りがいもあるよ」と松名瀬は笑いつつ、ハイボールを煽った。
 確かに、こうして、二人でなんとなく過ごしている時間は、良いモノだった。
(俺も、この時間は大事にしてるって感じなんだろうな)
 口に出して言うことはないだろうが、三十代になってからでも、こうして個人的に家で呑むことができる相手というのは、貴重な存在だと言って良い。
「この、豚こまのやつ、食べたことないんだけど。めっちゃ美味しい! 豚こまはカリカリだし、マヨソースがとろっとしてるし、ナニコレ最高。おつまみメニューとか増やさないの?」
「おつまみメニューねぇ……晩酌する人はいるけど、つまみを増やしてって言う要望は今までなかったなあ」
 それと、つまみを出すことで、客単価が上がるのも松名瀬にとっては、いくらかの懸念事項だった。
 松名瀬は、『うめ食堂』を、『労働者の店』だと思っている。だから、定食でも一食千円を超えてしまうのは、やはり心苦しい。
 仮に出社日の夕食が毎日『うめ食堂』だったら、二十日出勤で、二万円になる。
(お客さんの懐具合を考えるのって、商売人の考えじゃないんだろうけどさ……)
 それでも、自分だったら……と考えてしまうのは、悪い癖かもしれない。
「試しに置いてみたら? そういえば、『桜杏仁豆腐』も置いてくれないじゃん! 置いてよ~っ! せっかく作ってくれたんだからさ~」
 高橋は酔いが回ってきたらしく、若干も絡み気味だった。
「ああ、まあ……限定で出してみたんだけど」
 高橋のいう『桜杏仁豆腐』とは、この『桜町商店街』に新しく名物を作ろうといって、各店舗が作り出した杏仁豆腐だ。桜を使っていて、杏仁豆腐であること。これ以外にしばりは無いので、皆、自由に『桜杏仁豆腐』を作って提供している。高橋は、自分の企画だからもっと『桜杏仁豆腐』を盛り上げたいのだろうが、松名瀬は、こんな風に『名物を作ろう』として始めたモノに対して、猜疑的だ。
 名物というのは、その土地の人が作り上げてきた文化とか、背景とか、そういうバックボーンがあって、自然に発生するモノではないか、と思うからだ。
「……松名瀬さんは、『桜杏仁豆腐』は、いつも否定的だよ、ねぇ?」
 探るような視線だった。酔っている分、いつもより、ストレートに聞いてくる。
「否定的、というか……、ほら、みんなマンションには反対しただろ? へんな、コンサルに介入されて、何でもかんでも机上で勧められるのがイヤだって。でも、それって、『桜杏仁豆腐』も一緒じゃないかって思うんだよ。桜町には、『桜杏仁豆腐』なんて無かったのに、前からみんな『桜杏仁豆腐』を作ってたって顔をされると……ちょっと、嫌な部分はあるよ」
 この違和感を――、松名瀬は初めて口にしたかもしれない。
「ふうん」
 そう言いながら、高橋は、松名瀬の手を掴んで引っ張る。
「わっ……」
 畳に転がるハメになった松名瀬に覆い被さるようにして、高橋が、キスをして来る。
「っ……んっ」
 舌先に――、ハイボールの香りがある。今日のウイスキーは、スモーク強めのものだった。その燻製の香りが、舌先で絡まる。
「…………ちょっと、高橋さ……」
 高橋の胸を押し返そうとした松名瀬だったが、高橋はびくとも動かなかった。
 高橋は、無言で松名瀬とキスを繰り返している。
「んっ、っっ……」
 キスを繰り返されつつ、脚で、松名瀬の中心をこすりつけるようにして刺激され、松名瀬は、身体の芯が熱くなっていくのを感じていた。
「っ……ふっ……」
 漏れる吐息か尖って、混じる声が甘くなっていく。
 身体中を、高橋の手が撫でて行く。慣れた、手の感触に、身体が歓喜しているのがわかる。
(あ、そういえば、久しぶりだった……?)
 桜町は、このところ、大きなトラブルに見舞われていた。桜町商店街にマンションを建設するという計画が持ち上がっていたのだった。高橋は、桜町のあるこのはな木花市の市職員であり、観光課としては桜町が担当で、『桜町再生プロジェクト』にも深く関わっている。当然、このゴタゴタにも巻き込まれることとなったわけである。
 それが、今年に入ってからのことなので、ここのところずっと寝る間も惜しいほど、忙しくて、こういうことをするのは、久しぶりだった……。
 だから、高橋に触れられただけで、その手の感触に肌が歓喜している。
「っっ……、あっ、はぁっ……」
 高橋は、松名瀬が感じる所、敏感なところ……そういうことを全て知り尽くしている。だから、そこを重点的に撫でたり、わざわざ外したりして、松名瀬を容易く翻弄していた。
「ん、あっ……、高橋、さ……」
「…………松名瀬さん、早いんじゃないの? もう…………こっち、硬くなってるよ」
 ふふふ、と笑いながら、高橋の手が、するりと下着のなかへ入り込んできた。
「っ……」
 高橋の手が、やんわりと中心を包んでくる。そして、ゆっくりと撫でる。
「っん…………」
「……松名瀬さん、自分から、俺とシたいっていわないよね」
 耳元に、甘い声が聞こえる。なじられているのか、何なのか、表情が読めなくてよくわからない。
「っあ……っっっ」
「一回、出しちゃおっか」
 そう言いながら高橋の手の動きは、せわしなくなっていく。全身の血液が沸騰していくような感じだった。そして、一カ所に――身体の中心に集まってくる。肌の感覚が、酷く鮮明になって、高橋の荒くなっていく息が――肌に触れただけで、身体がびくっと震えてしまう。
「っ、高橋……っさ」
「窮屈だよね、脱ごっか」
 高橋が、松名瀬から服を奪っていく。剥ぎ取った衣服は、畳の上に無造作に放り投げられた。畳の硬い感触が、肌に触れる。
「ココで…………?」
「たまに、ここでやるでしょ?」
 ゆっくりと、松名瀬の中心を、こすり上げる。
「っ、それは、そう…………だけどっ、っっっっっっ!」
 松名瀬の身体が大きく弛緩する。上下に、中心をしごき上げる高橋の手の動きに合わせて、粘液の音が混じる。
「出ちゃったね。……すっごく濃い……松名瀬さん、他では、しないの? 自分でしたりとか」
「す、するわけ……」
「ふうん…………当たり前だと思うけど」
 と言いつつ、高橋は、松名瀬の脚を大きく拡げた。無防備な、最奥がさらされる。そこに、松名瀬の精液で汚れたままの指を、這わせる。
「っっっんっっっ!!」
 松名瀬の身体が、びくっと震えた。
「……ここ、しばらくしてないから、固くなっちゃったかもしれないよねぇ」
 高橋はそう言いつつ、ゆっくりと、精液を塗り込めていく。その粘度を借りて入り口をマッサージされているだけで、松名瀬の口から、甘いあえぎが漏れた。
「ぁっ、……っっんっ、あ……」
「……本当に、久しぶりだもんねぇ。俺も忙しかったし、松名瀬さんも、気ぜわしかっただろうし……」
 そう言いつつ、ゆっくりと指が最奥へ沈んでいく。
「んっっっっ……」
「キツ……ほら、もうちょっと、マッサージするからね」
 中の浅いところを内側から刺激される。快感は、浅い――のに、身体に染みついた感覚が、もっと早く、この先の快感を欲している。
「っあっ……、それっ、もどかしい……」
「ダメだって、ちゃんと、中をしっかりほぐさないと……」
 拡げるように、内壁を刺激される。優しい感触だが、物足りない。
 中は、もっと確かな感触が欲しくて、指を締め付けてしまっている。
「んっあっ……、高橋、さ……」
「……俺も、早くしたいんだけどね……ちゃんと、もっと、しっかり柔らかくしないと、怪我するし……」
 高橋は、自分のズボンの前側をくつろげて、ずるり、と張り詰めた剛直をさらけ出した。
 ぼんやりとした頭で、松名瀬はそれに手を伸ばす。
「っ……っ、あ、珍しい、ね……松名瀬さんが……俺の、触ってくれるの……」
 高橋が満足げに呟く。
「俺も、松名瀬さんも、ちょっと、限界みたいだから、先に一緒にイっておこうか……」
 高橋は、滾った自身の剛直を、松名瀬のそれに重ね合わせた。
「っっっっ!? ちょっ、高橋っ…………それっ……っっっ!」
「この状態で……身体と身体の間で、密着させて……ほら、俺が腰を動かしたら、どう? ……松名瀬さんのと、俺のがこすれて……気持ち良いでしょ……」
 固く張り詰めた剛直同士がこすり合う。固くて熱いもの同士がこすれ合うのが、なぜかひどく気持ちが良くて声を張り上げてしまった。
「っっっっっっっっっっぁっっっっ、…………っっっあっっっっんっっっ」
「あ……松名瀬さん、これ、好きなんだ……前からやって上げれば良かった」
「っ、べ、べつに、好き、というわけでは…………っっっんんん」
 高橋は、松名瀬が反応を良くしたことに気を良くしたらしく、しつこいほどにそこをこすり上げてくる。
「っっ……っっ! …………っっんっ」
「じゃ、取り合えず、一緒に行こう? …………ほら…………俺もイくから……っっっああ、イクっっっ」
「っっっあっ、っっっ、っっっっっっっっっっっ!!!!」
 二人同時に絶頂を迎えて、高橋は思わず、松名瀬に覆い被さってしまう。
「ちょっ、……高橋さん、重いよ……」
「あー…………ゴメン…………なんか、急に」
「疲れた?」
「いろいろあってねー……」
「桜町がらみ?」
「……ノーコメントっていいたいところだけど……、その通りかな。マンションにした方が良い派と、このまま商店街を存続させた方が良い派で、わりと対立しててね。板挟み。…………こっちも、うまく観光客とか呼び込みたいけど」
「なんにもないだろ」
「うん、なにもない」
 はは、と高橋は笑って松名瀬の身体をぎゅっと抱きしめる。
「なに?」
「素っ気ないなあ……ちょっと、今日は、後ろ無理そうだけど……、松名瀬さんとしたいなあ。松名瀬さんの中で気持ち良くなりたい」
 真剣な声で言う高橋にはあきれつつ、松名瀬は、「物好きだな」とだけ呟く。
「えー? そう?」
「ああ。だって、俺だって、いい年だし……ちゃんと、したいっていうのも……」
「ちゃんとしたい。……ちゃんとしたいからぁ……松名瀬さん、ちゃんと、後ろ、慣らしておいてね。今日は諦めるけど……今度は、ゆっくり、松名瀬さんを抱きたいな」
 ストレートな言葉は、松名瀬に取って意外なものだった。今まで、こんな風に言葉を告げたことはなかったはずだ。
「……それって……」
「…………眠い……」
 急な眠気に襲われたのか、高橋はそのまま、目を閉じて眠ってしまった。
「…………ちょっとまて……これ、どうすんだよ……」




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