男は往来に首を切り落とされ埋められていた。 罪を犯したのである。 男は、虫を捕らえて、願いを叶えることが出来る虫と妄言し、祀ったのである。 それは瞬く間に広まって多くの者たちが虫の為に身を滅ぼし、ついに軍(みいくさ)が立てられ誅されたのである。 男にはたった一つだけ叶えたい望みがあったのだった・・・。 寶皇女(たからのひめみこ)の御代を舞台に男の妄執を描く。
摂津中島(大阪府大阪市北区)で浪人生活を送る仙石権兵衛(秀久)。 その妻・幸はある朝、一人の男に出会う。 その人物は洛外を追われて流寓の身となった公家であった。 幸は、その人物に、あることを願う。 夫の在陣祈願の為、連歌を催してくれないか……? 戦国時代の最末期に、復帰に向けて巻き返す夫婦の物語。
高貴な女性を殺した盗賊の末裔である「猿」は、身体に呪いを受けながらも、物乞いなどをして日々を過ごしていた。 しかしあるとき、大名が通りかかり、「猿」に木綿を与え、幸せに暮らすことが出来るようにと村のものに言いつけて去って行く。 大名は、織田信長。 天下を手に入れようとしている男だった。 織田信長が善意で与えた反物が、山中の「猿」の運命を狂わせていく。 山中の猿と、春の物語。 自由と現実。 仮想と現実のあわいで、私が目にするものは・・・。
慶長十二(一六〇七)年駿府(静岡県静岡市)にある瑞龍寺の住持は、困惑していた。 十七年も昔に他界した旭姫の法要が行われるからだ。 旭姫は豊臣秀吉の妹で、半ば人質のような形で、德川家康に嫁いだ女人である。 (なぜ、今頃―――今更、法要など……) 戸惑う住持に、家康はあるものを渡す。 それは、旭姫の所用であった小袖を作り直した、美しき打敷であった……。 栄達した身内に翻弄された人生を過ごした女人の物語。
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